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岡 直樹の修理雑記 第十二回
ヌシャテル1898(懐中時計)のオーバーホール

 修理雑記初めての懐中時計です。この時計のおかげで懐中にはまってしまったのですが、今までサボっており書きそびれておりました。
 この時計はベルンの「射撃博物館(入場料無料)」にも飾ってあった物です。スイスで有名なのは時計、チョコレート、薬品、そして銃器です。個人的にも興味がある分野ですので訪瑞4回目にしてようやく見学できました。その博物館のコレクションの中にこの時計があったわけです。
 おそらく射撃大会の賞品として入賞者にあげたのもではないかと推測しております。違ったらごめんなさい。




 射撃博物館に飾っているヌシャテル1898。




 今回の修理雑記のヌシャテル1898
 博物館からガメておりません(笑)。博物館所蔵のものより彫が減っております・・・。




 文字板の中心にクラック&欠けがあります。








 内ブタです。
 機械です。昔の懐中は2番車のホゾが独立しています。また、ツツカナはデコボコが無くツルツルなのでピンセットやツツカナ抜きでは抜けません。抜き方はツツカナの方から真(ホゾ)をコンコンとトンカチで叩いて抜きます。
 他のことに気をとられてその画像を撮り忘れました。残念!いつも夢中になると大切なことを忘れてしまいます。年なのかアホなのか・・・。
さて、他のこととは・・・
 脱進機(アンクル)と調速機(テンプ)です。歩度調整はスワンネック緩急機をネジで微調整します。昔のオメガなんかもこの機構が付いておりますが、緩急真を直接移動することが出来ます。
 しかし、この時計は、緩急真のみを動かすことが出来ないので調整の幅が限られております。組み上げるときシッカリとヒゲの調整を施さなくてはいけません。当時の時計はとっても手が込んでいたものでした。
 バイメタルの切テンプ、ブルースチールのブレゲヒゲです。
 チラネジでテンプのバランスをとります。ちなみにチラネジ付きのテンプを空気中と真空中で比較したら真空中の方が振り角が上がったとの話を聞いたことがあります。私が実験したのではないので真偽のほどは定かではありませんが、「空気抵抗」って馬鹿にできないんですね。





 アンクルも凝っています。仕上げもばっちり。
 そして、香箱です。「ゼンマイ目一杯巻けない装置(正式名称はわかりません)」がついています。
 香箱真にデッパリが出ています。このデッパリが下の風車のような車の溝にはまり、一枚ずつ送っていきます。そして風車が一回転(香箱真は4回転)するとストッパーが掛かりそれ以上ゼンマイを巻き上げることが出来ません。  ご存知の通りゼンマイは何時切れてしまうか分かりません。ただ、巻き上げ過ぎが原因でゼンマイが切れてしまうことはよくあります。特に昔のゼンマイは今よりも切れやすかったですし。(ちなみにこの時計のゼンマイは今の物に交換されております。)
また、ゼンマイを目一杯巻いた状態、少し解けた状態、かなり解けてあと少しで止まる状態とでは歩度が変わってきます(等時性と言います)。一番おいしいところは少し解けた状態です。ここからしばらくはトルクも安定していて等時性も良くなります。この機構はゼンマイトルクのおいしい所から時刻を刻めるように、目一杯巻けないようにしています。
ゼンマイ巻き過ぎ切れ防止とゼンマイトルクの特上部分(サーロイン?フィレ?)の一石二鳥の賢い工夫です。
 昔の高級懐中時計にはこの機構が結構あります。巻上げた時、機械的にカチっと竜頭が止まればもれなくこいつが付いています。ぜひ試してみてください。


 懐中時計初の修理雑記にこの時計を選んだ訳は、このモデルは私が初めてOHをした1800年代の懐中時計でした。
 それまでは古くてもせいぜい50年代のアンティークウオッチをOHして、「何だ、現行品より造りがいいじゃないか」
とホニャララ気分(意味不明)でしたが、こいつをバラした時は「なんじゃこりゃ〜」というくらい衝撃的でした。
 その後、色々と古い懐中をいじらせていただく機会があり、これよりもすごい時計もあるんだと勉強させていただきましたが、未だにこれの衝撃は忘れられません。
 古い懐中時計の世界(魔界?)に引きずりこまれた思い出の逸品です。
 私に衝撃を与えたこの時計の初代は泣く泣く売ってしましました。今回、修理雑記にあげているのは2004年にスイスへ買い付けに行ったときに再び巡り会った2代目です。思わず値段も見ずに買ってしまいました。一応売り物ですが、売りたくもあり売りたくもなしで・・・。困ったものです。趣味と仕事は別の方が良いですね。
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